リクナビnextを使ってみる

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その後すぐに彼が、やはり私が紹介した別の出版社でも企画を進めていることが伝わってきたりした。 と私は舌を巻いた。
なんと粘り強いことだろう。 普通は2、3年で成果があがらなかったら、めげてしまうだろう。
彼は4年も頑張り通したのだ。 さらにK玉氏の成功譚は続く。
彼はつい最近、某文学賞の奨励賞というのを受けた。 私はその祝賀会にも出席したが、会場をぎっしり埋める友人や作家、編集者に囲まれた彼はいかにも晴れがましそうで、一家の生計費の大半を支えた奥さんも、長年の内助の功が報われたという嬉しそうな顔をしていた。
彼の受賞の挨拶は、自分を売り込むことを苦としない、その精神的なタフネスぶりを如実に表していた。 ……うちの押し入れにこれまで書き溜めた未発表の作品がたくさんありますから、ここにお集まりの編集者の方々、ぜひともこれらの作品に日の目を見せてやって下さい……おおよそこんなふうにいったのである。
その後、いくつかの小説雑誌などで、K氏の名前を見かける機会が多くなってきている。 今や彼は小説家として渡世をしていける軌道に乗ったといえるだろう。

私はこんなふうに自分の人生を少しでも気に入ったものにするため、積極的に自分を売り込もうとする人が好きである。 遠慮する必要など何もないのだ。
無用の遠慮をしたため貧乏くじを引かされ、不本意な立場に追いやられ、若いうちからリタイアの気分になっている、なんて図は、痛ましく思えて仕方ない。 もちろん、あまりにあざとかったり人の足を引っ張ったりするのは好きではないが、そんな例はほとんど見たことがない。
もう1人の友人、M氏(仮名)は、K玉氏とかなり違うコースを辿ってしまった。 彼は大手企業のサラリーマンだったが、上司と喧嘩をしてそこを辞め、生来、文章を書くのが好きだったから(いくつか面白い研究論文のようなものを書いてもいた)、物書きになることを志した。
M氏と私とは長い友人で、私は彼にも何人かの編集者(今度はノンフィクションの雑誌の編集者たち)を紹介したのだが、彼はほとんど私が紹介した相手に会いに行こうとしなかった。 あるときはある出版社で、私も共著で一緒に仕事をしたのに、その編集者と彼とはその後すぐに縁が切れてしまった。
彼の自尊心が強すぎて、私に頼ることを最後のところで「よし」としなかったのかもしれないし、未知の人と会うのが好きでなかったのかもしれない。 K氏とM氏とでは物書きとしての才能も違ったのかもしれないが(はっきり分かるほどまだ両者は自分を発揮してはいないが)、それ以前の、自分を売り込む力が相当違ったといわざるをえない。
少し横道にそれるが、M氏のように未知の人(何度か会っていても、あまり気心が知れていない相手も含む)が苦手だという人は世の中にかなり多い。 一番苦手なのは相手に直接会うこと、続いて相手と電話で話すこと、ファックスや手紙のやりとりだったら、かなり込み入ったやりとりでも平気なのである。
つまり相手の生身の度合いが高く、リアルタイムのコミュニケーションの中で、自分の言葉や態度にどう反応してくるか分からない対象を相手にするのが怖いのであろう。 パソコンやビデオとばかり過ごし、他人を避ける若者を「おたく」と称して現代若者論が展開されるが、中年にだってそういう人は少なくない。
世代の産物ではなく、時代の産物だと私には見える。 生身の他者が苦手な人のもっとも典型的な事例として私か記憶しているのは、次のようなものだ。

ある日、某教育関係の雑誌から、執筆を依頼する郵便がきた。 中に執筆を承知するかどうかを問うハガキがついている。
「OK」と返事をするついでに、「貴誌のように子育てとか人間のコミュニケーションとかを追求している雑誌が、手紙で執筆依頼をハガキで返事を求めるとは矛盾していますね。 そちらの意図とこちらの考えとをすりあわせる機会が、あってもいいのではないですか」と、ちょっと偉そうなことを書いた。
またまた「ビギナーズーハイ」である。 そうしたら、「コミュニケーションは大事だと、私も日頃から思っています」というコメントが、電話ではなくまた手紙で来た。
まるで私がでっち上げた笑い話のように聞こえるだろう。 彼からはとうとう最後まで、会うことはおろか、電話さえかかってこなかった。
彼の手紙を見ながら、この人は頭では「フェース.トゥー.フェースのコミュニケーションが大事だ」と思っていても、生理がついて来ないのだな、としみじみ思ったのである。 「他人が苦手な人」とは反対に、しょっちゅう人に会っていないと落ち着かない人もいる。
こういう人は人に会っていると、それだけで仕事をした気分になるようだ。 彼らは、人脈(コネ)は仕事に大いに役に立ち、仕事を旺盛にやっている人は、きっと人脈に恵まれているのだと考えている。
人脈作りに強い関心を持ち、異業種交流会などを絶えずチェックしては、せっせと出かけて山ほど名刺をもらってくる。 こうして築いた人脈は、自営業や自由業にとって本当に役に立つのだろうか?私の場合はこうだった。

新聞社の記者が付きっきりで、株の世界のレクチャーをしてくれた上、取材の相手はほとんどすべて新聞社がお膳立てしてくれた。 『小説O蔵省』と並行して『ドキュメント.サラ金』というノンフィクション書下ろしの準備をしていた。
依頼してくれたのはG書房時代に一、二度会ったことのある編集者、S氏(仮名)だった。 この時の取材先は、3分の2は私が歩き回って見つけ、あとの3分の1はS氏が紹介してくれた。
サラ金の紹介屋という、怪しげなアウトローの臭いのする商売の本拠地も、自分で捜し当てた。 ところでちょっと脇道にそれるが、取材の途中でS氏が会社を辞めるという「事件」が起きた。
そのことをT書房のK氏に話したところ、K氏が「自分のところでやろう」といってくれたのだ。 こんなことをいうとS氏には失礼だが、S氏の出版社よりT書房の方が、世間的にはいい出版社と評価されており、初版刷り部数も多く、私にとってはメリットが大きかった。
ここでのテーマから外れるが、このことも先に書いた「運と不運は入れ替わり立ち替わりやってくる」といういい事例になるだろう。 いや、私がこんなことを偉そうにいわなくても、「塞翁が馬」という故事はまさにこのことである。
十数年の物書き体験で、本を出してくれる出版社の側を考えても、取材相手の側を考えても、人脈があれば少しは話が早く進むが、なくてもどの障害とはならない。 それにいつも人脈があるところで、新しいテーマに取り組むというわけにはいかないのである。
誰でもある業界で仕事をやり始めれば、自然と人脈はできてくる。 年々ふえてくるが、多くの場合、人脈が仕事を生み出すわけではない。
ある本を書くとき自然とできた人脈が、後の仕事にも役に立つというケースは、10%(10人に1人)もないだろう。 大半はそのつど新しく必要な人を掘り起こしていくのである。
だからただ名刺入れの中身をふやすような人脈作りはムダである。 その人脈がたまたま仕事に役に立つこともあるだろうが、費用対効果を考えたら、膨大な時間の浪費をしているに決まっている。
私にはまったく自明に見えるこのことが、そうとは見えない人が世間にはとても多い。 サラリーマンの勉強会などが溢れている。


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